雪国観光圏は、16年間に渡って取り組んできた私のライフワークです。そこで多くの経験を積み重ねる中で、文化は未来を支える力になるということを実感してきました。文化は、過去の遺産ではなく、鉱脈であり、豊かな土壌です。N37の「文化を、未来の力に」というビジョンは、この実感から生まれています。
雪国観光圏では、さまざまな試行錯誤をしてきました。うまくいったこともありましたし、そうでないこともありました。いま振り返ってみると、うまくいった取り組みには、共通の構造があります。
その構造を整理したのが、文化の力フレームの「資源 × 作用 → 力」です。雪国観光圏のさまざまな取り組みを、このフレームを通して分析すると、資源と作用の掛け合わせのさまざまなパターンが見えてきます。
雪国観光圏の特徴をひと言でまとめるなら、「雪国文化」というコンセプトをもとに一貫したブランディングを続けてきたことだといえます。全国に11箇所ある観光圏の中でも、ブランドコンセプトを実践に落とし込む取り組みは高く評価され、2018年にジャパンツーリズムアワードの大賞にも輝きました。
以下に雪国観光圏の実践のなかで、私が関わったものをいくつかあげます。
続いて、上記の実践を文化の力フレームの「資源 × 作用 → 力」で分析します。
雪国の取り組みをたどっていくと、多雪という環境への適応を軸に文脈をつくり、そこで生まれる関係の力を育て、その経験を翻訳によって知の力へと結びつけてきた、という流れが見えてきます。
一方、エルメスや歌舞伎など、いわゆる成立期の文化を分析すると、環境・関係・技術・歴史・知といった異なる領域の力が、多層的に結びついているという共通点も見えてきます。
文化の力フレームで診断すると、雪国観光圏は、環境や関係、知といった領域では作用をはたらかせて密度(D)を高めてきたものの、技術や歴史の面ではまだポテンシャルを活かしきれていないこともわかります。また、関係と知、環境と知の領域は結びついている一方で、異なる領域どうしの結合度(C)は、成立期の文化と比べると、まだ発展途上だといえます。
雪国観光圏は、16年にわたる実践を積み重ねてきました。ブランディングの面では一定の評価をいただいていますが、客観的にどのレベルにあるのか、どこに伸びしろがあるのかは、これまでつかみにくいままでした。
しかし、文化の力フレームを通して雪国の取り組みを観測することで、
といった「現在地」と「これから」の方向が、具体的な構造として見えてきます。
文化において大事なのは、単一の物差しで優劣をつけることではなく、それぞれの場がどんな特異な力の重なり方をしているかを理解することです。文化の力フレームは、雪国観光圏のような一つの地域の内部構造を読み解くと同時に、他の地域や文化との違いを、多次元的な構造として比較するための道具でもあります。
雪国の実践で培ってきたこの方法を、これからは他の地域や領域にも広げていきたいと考えています。