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地域ブランディングにおけるコンセプトとは何か。キャッチコピーやビジョンとどう違い、どうすれば機能するのか。「コンセプトを定めましょう」と多くの教科書に書いてありますが、コンセプトとは何かを正面から説明した文書は意外と少ない。本記事では、コンセプトを地域の資源に基づく独自性を、判断基準として使える形に言語化したものと定義し、その機能と条件を整理します。
知らないうちに、コンセプトとキャッチコピーを混同してしまっていないでしょうか。「コンセプトを作ろう」と言いながら、実際にはキャッチコピーを作っている場合が意外に多いように思います。では、コンセプトとキャッチコピーはどう違うのでしょうか。時間軸、性質、効果という観点で整理してみました。
| コンセプト | キャッチコピー | |
| 時間軸 | 長期的 | 短期的 |
| 性質 | 本質的 | トレンド対応 |
| 効果 | 蓄積される | 消費される |
ブランディングとコンセプトは、長期的・本質的・蓄積されるものです。
誤解しないでいただきたいのは、キャッチコピーやキャンペーンがダメだと言っているわけではないということです。どちらがいいという話ではなく、コンセプトとキャッチコピーは役割が違うということをちゃんと理解して使い分けることが大事です。
もうひとつ、コンセプトと似たような言葉にビジョンがあります。どちらも長期的な方向性を示すという意味では同じですが、ビジョンは未来像の可視化(「こういう地域を目指そう」という求心力)で、コンセプトは判断基準(「この企画はうちらしいか」という実践の軸)として働くという違いがあります。これもどちらが良いという話ではなくて、役割を理解した上で、使い分けると良いです。
ただ、コンセプトとビジョンは性質が異なるので、最適な策定プロセスも異なります。ビジョンは「そうありたいと願う姿」なので丸くてもよい。ひとつの言葉に集約するよりも、複数の言葉で多面的に捉えられているとよい。デービッド・アーカーも、ブランド・ビジョンの構成要素は6〜12はあるだろうと言っています(※)。そして、多くの人の共感を束ねるものだから、住民ワークショップで広く声を集めるプロセスと相性が良いと思います。一方、コンセプトは独自性に尖っていることが求められます。多くの人の意見を平均すると角が取れて弱くなるので、中核人材で検討する方が良いと考えています。
※デービッド・アーカー『ブランド論』阿久津聡訳、ダイアモンド社、2014年。
コンセプトにおいて最も大事なのは独自性です。これは地域に限らず一般的な原則だといえるでしょう。ただし、企業の商品やサービスと地域には決定的な違いがあります。企業は新しい商品を開発できますが、地域はそこにあるもの(資源)で勝負せざるを得ません(テーマパークやショッピングモールを誘致する場合は別ですが、それは「地域ブランディング」とは異なる話題)。
「地域らしさ」とは何か。観光地域づくりでよく聞く言葉ですが、それは言い換えれば「地域の資源に基づく独自性」のことです。
つまり、地域のコンセプトとは、地域の資源に基づく独自性を、判断基準として使える形に言語化したものだと整理できます。
コンセプトを作ったことに満足して、飾りにしてしまっていないでしょうか。コンセプトは、日々の意思決定にこそ使えるものです。
この企画は良い・悪い、この体験は良い・悪いという判断を迫られたとき、属人的なセンスに任せるのではなく、判断の基準となるのがコンセプトです。「この企画はコンセプトに合っているか」「この過ごし方はコンセプトを体現しているか」。何かの判断を問える状態になって初めて、コンセプトが機能しているといえます。
私が10年以上関わってきた雪国観光圏は、「雪国の知恵」というコンセプトがあります。例えば、フリーペーパーの特集企画を話し合うブランドWGでは、企画の良い・悪いは、コンセプトに沿っているかどうかで判断しています。またガイドをする際も、コンセプトが言葉選びの基準としてはたらきます。織物を紹介するとき、単に「歴史ある織物です」というのではなく、雪国の知恵に照らして「雪国の冬の湿気のおかげで、乾燥に弱い麻糸を繊細に織る技術が発達しました」と言い換えることで、意味が深まります。
さらに興味深いのは、コンセプトが判断の道具にとどまらず、担当者のまなざしそのものを変える場合があるということです。
ある地域のSNS運用では、コンセプトとガイドラインを導入した後、写真のセレクト基準が変わりました。以前なら迷わず使っていた写真が、「これは違う」と感じられるようになったといいます。
これは、コンセプトを参照して判断しているというよりも、コンセプトが内面化されて、見え方そのものが変わった状態です。私自身も「雪国の知恵」というコンセプトを通して見る癖がついています。判断基準が「使う道具」から「ものの見方」に変わる。このまなざしの変化が起きたとき、コンセプトはもっとも深く機能しているといえるのではないでしょうか。
同時に、コンセプトは観光客にも響くものでなければなりません。
ここで重要なのは、資源に基づく独自性である以上、コンセプトが響く相手は限定されざるを得ないということ。万人に受けることを求めると、せっかくの独自性を薄めてしまうことになります。
相手を限定することは制約ではなく強みです。独自性があるからこそ、「これは自分のための場所だ」と感じてもらえる。
そして、相手を限定してしまうからこそ、調査が大切になります。コンセプトに共感してくれるのは、どんな人なのか。どんな興味を持っていて、旅に何を求めているのか。コンセプトに共感してくれる人を探すために、ターゲット調査を行います。
そして、内向きの判断基準が機能していると、外向きの発信にも一貫性が生まれます。地域の顧客接点では多様な人々が関わるからこそ、コンセプトが方向性を揃える軸になるのです。
冒頭に示したコンセプトの定義(資源に基づく独自性 × 判断基準)に照らすと、多くの失敗は構造的に説明できます。
では、機能するコンセプトとは、どういうものか。必要な条件を示します。
文化の力フレームでいえば、コンセプトは知の力に位置づけられます。世界をどのように理解し価値づけるかという思考の基盤を、地域の実践で使える形にしたものがコンセプトです。資源を構造的に捉え直すための方法として、文化の力フレームでコンセプトを導くための具体的な手順も記事にしていますので、ご覧ください。
コンセプトは大事ですが、それはあくまでも出発点です。その先に、ターゲットの設定、過ごし方の設計、一貫した発信というプロセスがあります。
それが機能し始めると、むしろ悩みが増えることもあります。写真選びだけでなく、日々の業務をみる目線も変わる。「この業務はこれでいいのだろうか」「組織のあり方はこれでいいのだろうか」と、問いの範囲が広がっていく。コンセプトにはそういう力もあります。
また、判断を繰り返すことで自分ごとにしていく仕組みも必要です。これらの実践については、地域ブランディングの進め方と難所、ブランドWG:地域ブランディングを続ける仕組みで詳しく書いています。
ここではもうひとつ、コンセプトがもたらす変化について書いておきたいと思います。
経済主導から文化主導の時代へ(2)では、OTAが環境の力・技術の力・関係の力であるかのように作動し、宿が経済という単一の意味体系への応答に従事させられている構造を記述しました。コンセプトは、その構造を解除します。同じ口コミでも読み方が変わり、同じ状況でも打ち手が変わる。OTAが提供する力とは別の、宿固有の力が見えてくる。
さらに、宿の内側の判断を変えるだけでなく、外にある資源の見え方も変えます。コンセプトがなければ、地域の風土や食文化や生業は「背景」にすぎません。しかしそれがあると、「この資源は自分たちにとって意味がある」と読めるようになる。コンセプトは宿を閉じるのではなく、地域に向かって開く装置にもなりうる。その実践例として、ryugonが地域コンセプトをどう事業に実装し、地域との循環をどう生み出しているかを、文化とブランディング(2):ryugonの実践で詳しく書いています。
地域の資源に基づく独自性を読み取ることができれば、それは単なる言葉を越えて、日々の活動の判断基準となり、人や地域を動かす力を持つようになります。