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ブランディングのゴールは、コンセプトに基づいて情報から体験までを一元管理するワンストップ窓口の構築と設定しています。
具体的な手順の説明の前に、地域におけるブランドとブランディングについて、私なりに整理しておきます。
ブランドは「この地域に行けば、こういう時間が過ごせそうだ」という期待感であり、ブランディングは、そうした期待感を、情報や体験を通じて時間をかけて構築する活動だといえます。
雪国観光圏では、以下に説明する1〜4の手順で、ブランディングを実践することで、期待感の創出につなげています。
以下でご紹介する手順は、雪国観光圏で実践してきた取り組みを、事後的に振り返って整理したものです。
コンセプトを定めるとは、地域独自の強みや特性をはっきり示し、地域が目指す方向や価値を明確にすることです。コンセプトが明確になると、地域の関係者に共通の意識が生まれ、自信やモチベーションの向上にもつながります。また、わかりやすい目標や方向性があると、迷ったときもすぐに原点に立ち返りやすくなります。
雪国観光圏の場合、コンセプトを定める上で重要だったのが、「雪国文化研究WG(2014〜)」です。専門家が集まり、歴史・食・植生・文学など多様な側面から雪国文化を見直し、北緯37度という特性や、縄文以来の長い暮らしの積み重ねなど、多雪というあたりまえの資源に眠る可能性を提示していただきました。
また、住民や関係者が参加できるワークショップを開き、話し合いを通じて共感や合意を形成するのも有効な方法です。しかし、住民としてあたりまえに接している資源を捉え直し、そこに眠る新しい側面を探ることはとても難しい作業でもあります。
あたりまえの既存資源を捉え直して、コンセプトを定めること。ここが1つめの難所になります。
ターゲットを定めるとは、コンセプトに共感してくれそうな潜在顧客を明確にすることです。どこにそのような顧客がいて、どんな価値観を持っているのかを探ります。日本人と外国人では歴史や文化的背景が異なるため、国内向けと海外旅行者向けの調査やマーケティングを別々に行う必要があります。
具体的には、コンセプトを提示してインタビューをする定性調査によってニーズを探ります。また、年齢や職業、趣味、生活習慣などの具体像をつくりあげるペルソナマーケティングという手法も有効です。
ターゲットの考え方やニーズを深掘りすると同時に、コンセプトの微調整も行います。そして調査結果を踏まえて、コンセプトを表現する言葉やイメージを揃えます。
観光は形がない商品です。だからこそ、訪れる前から「どんな時間が過ごせるか」を想像できる形にする必要があります。雪国観光圏では、経験や時間の流れを設計することを、過ごし方と呼んでいます。体験を時系列で並べるだけではなく、そこで得られる経験や感情まで想定して設計することを指します。
1と2で抽出したコンセプトとターゲットを照らし合わせて、過ごし方を導き出します。そして「どんな時間を過ごせるのか」「どのような学びがあるのか」「そこでなければならない理由は何か」などを考えながら、体験や映像に落とし込んでいきます。
さらに過ごし方を、ガストロノミーやサステナビリティといった世界的な潮流に接続し文脈に合わせて翻訳することで、インバウンドを対象にしたコンテンツに転用します。
一貫して伝え続けるとは、単なる情報発信を意味しません。地域のコンセプトに基づいて情報発信から過ごし方までを統一的に発信し、ブランドイメージを具体化することです。
観光は、多くの業種が関わりますので、全体のイメージをそろえるのは簡単ではありません。そこで必要になるのが、情報と体験を集約し、ひとつのストーリーで紹介する仕組みです。それが、雪国観光圏が目指す情報を一元管理するワンストップ窓口です。
また、情報を発信するだけではなくて、情報を資産として蓄積するという観点も大事です。特に検索エンジンでは、構造化された情報のアーカイブが有効だと言われています。
ブランドづくりは時間がかかる取り組みです。しかし、地域の取り組みは、予算も人員も限られることが多く、継続が難しい。
いかに継続するか。これが2つめの難所です。
雪国観光圏のブランディングで行ってきたことは、「雪国」という概念の刷新です。
概念を刷新するとは、単に言葉を変えることではありません。それは、「関係性」やそこから生まれる「意味」を刷新することです。
私たちが「雪」を「邪魔もの」と定義するか、「恵み」と定義するかで、私たちの行動も、そこで感じる意味も変わります。つまり、ブランディングとは、地域における文化(関係性と意味の体系)を再構築することでもあるのです。
だからこそ、地域の資源や関係性がどう作用しているかを読み解く文化の力フレームが見取り図として有効になると考えています。例えば、「雪」の例は、環境資源を翻訳作用によって環境の力(未来をひらく文脈)に変換することだと読み解けます。
雪国における概念の刷新は、以下の4点に整理できます。
単体市町村ではなく、多雪という環境を同じくする複数地域が連携して新しい枠組みを形成。広域を貫くコンセプト(雪国の知恵)を設定し、それを通して暮らしや伝統といった既存資源を翻訳しています。
雪国の意味を、小説雪国に代表される近代的な概念から、歴史的な事実に基づいて、縄文以来8,000年続く雪国という時間軸に移し替えました。これにより短期的なトレンドに左右されない強度を持つようになっています。
定期的に実施するブランドWGを通じて、繰り返しコンセプトに向き合う機会を設定。雪国という概念を磨き上げるとともに、関係者への浸透をはかり、ブランディング活動を支える基盤を強化しています。
雪国という概念を、ガストロノミーやサステナビリティといった世界的な潮流に接続して、文脈に合わせて翻訳しました。射程を世界まで伸ばすことで、雪国の新たな可能性を発見する契機となっています。
雪国観光圏のブランディングは、コンセプトとターゲットを定め、過ごし方を形にし、一貫して伝え続けることだと整理できます。そうした継続が積み重なったことで、「雪国」という言葉の意味が少しずつ更新され、既存資源が人を惹きつける力を持つように育ってきています。
手順はシンプルですから、再現性があります。しかし、難所もあります。
自地域の特徴や強みを把握する。そのためには、思い込みや慣例ではなく、客観的に捉えることが必要です。
そのためのフレームワークとしては、SWOT分析が定番です。しかし、SWOT分析は、強みや弱みを把握することはできますが、それがどこに起因しているかは、わかりません。
文化の力フレームは、地域や組織の資源と作用を分析し、強みがどこから立ち上がっているのかを読み解くことができます。
フレームを使って地域や組織の文化の力を診断すると、資源-作用-力という構造が歪な偏りとして現れることがあります。その偏りこそが独自性であり、コンセプトの種子です。
ここで文化の力フレームを使うことは、ブランディングを強化することにもなります。なぜなら文化という根っこを共有することは、そのブランドの意味を深めることでもあるからです。
ここでも、コンセプトが鍵になります。地域の希望があると感じられるコンセプトがあることで、やる気になってくれる人も出てきます。
でも、個人の頑張りだけに依存せず継続するためには、やる気を維持する仕組みも要ります。
ここでは、雪国観光圏のブランドWGの仕組みがひとつのモデルになると思っています。このWGの特徴は、議論がフリーペーパー「雪と旅」の特集企画に直結していることです。これは他の地域でも転用可能な仕組みだと考えています。詳しくは、ブランドWG:地域ブランディングを続ける仕組みという記事にまとめていますので、ご覧ください。
ブランドWGは、文化の力フレームでいえば、共創作用の実践でもあり、諸力の結合度を高めて文化の力を高める効果もあります。
地域ブランディングの手順はシンプルです。難しいのは、「資源を捉え直すこと」と「続けること」。
この難所を乗り越えるために必要なのが、地域の「希望」を示すコンセプトと、それを成果につなげる仕組みです。
「希望」があるからこそ、私たちは小さくても、歩みを止めることなく続けることができる。
結局のところ、ブランディングとは、目標を定め、共有の場をつくり、その希望をみんなで育てていくことなのだと思います。
この考え方を、実際のプロジェクトでどう形にしてきたかをまとめています。
実績(Works)