文化は見えない力です。……けれども、工芸品や古い街並みなど文化は見えるものだ、と普通は考えます。

そこで思考実験。

たとえば、歴史ある街並みと、それを模して新しくつくった街並みを比べると、目に見える形はほとんど変わりません。むしろ新しい方が清潔で整っています。それでも人は、古い街並みに惹かれます。

ここに、文化の見えない力があります。それは物理的な「実在する力」とは違います。でも私たちは、それに影響されてしまう。そこに力がある「かのように」感じてしまう。

その力の正体はどんなものだろうか。そこからN37の探求がはじまりました。

そして作り出したのが、文化の力を観測する文化の力フレームです。文化の力フレームでは、文化の力を、歴史の力・技術の力・関係の力・環境の力、そしてそれらを結びつける知の力の連関だと捉えています。これら5つの力が、密度(D)と結合度(C)を高めるほど、文化の力(P)は強くなると考えています。

文化の力(P)= f(密度D × 結合度C)

文化の力フレームで、成熟した文化(京都の町家ウィーンのカフェ江戸の化政文化など)を観測すると、

そこには5つの力が多層的に重なり合っていることが見てとれます。見た目の意匠や物量だけでは説明できない「質」が、力の重なり方として立ち上がっているのです。

文化の力フレームは、この文化の力を「資源」と「作用」の掛け合わせとして捉えます。気候や地形、人と人の関係、技術や歴史、思想や言語といった資源があり、それらに対して、反復・再生・研磨・共創・適応・翻訳・異和といった作用がはたらく。その結果として、環境の力・関係の力・技術の力・歴史の力・知の力が立ち上がる、という構造で見ていきます。

文化の力フレームは、この「資源 × 作用 → 力」という構造を観測し、分析するための枠組みです。過去にさかのぼって、どの資源にどの作用が重なり、いま目の前にある文化の力が生まれてきたのかを読み解くことができます。そして、これからどの資源にどの作用が重なりうるのかを考え、未来の関わり方を探っていくときの手がかりにもなります。

言いかえれば、文化の力フレームは、力を「資源 × 作用」に因数分解することで、文化の力をわかりやすいかたちに置き換えて、どんな実践が必要かを考えるためのツールです。もちろん、こうした因数分解だけで文化そのものを捉えきれるわけではありません。それでも、見えない力を共有可能なかたちに開く試みとして、この枠組みを位置づけています。文化を歴史や情緒として眺めるだけでなく、「どの力を、どう高めて、どう結びつけていくか」という手がかりを提供します。

これは、地域や企業、プロジェクトが、自分たちの足もとにある文化の力を見直し、その活かし方をともに考えていくための実践的な枠組みでもあります。地域であれば、古い祭りや街並み、技や物語といった資源に、どの作用が足りていないのかを見極めること。企業であれば、技術やブランド、人材やパートナーとの関係を、どのように結び直せばよいのかを検討すること。プロジェクトであれば、単発のイベントで終わらせず、反復や再生へとつなげていくことができます。

文化を、未来の力に。それが、N37のビジョンです。