Journal: Concept

述語人材論v0.2:設計者という視座

2026.03.20

述語人材論

v0.1 「誰がやるか」から「何を起こすか」へ | v0.2 設計者という視座

 

述語人材論v0.1では、「誰がやるか」ではなく「何が起きる条件を整えるか」という視点を提示しました。v0.2で踏み込むのは、条件を整える「設計」とは何か、そしてその設計ができる人は何をしているのか、という問いです。地域プロジェクトで繰り返し聞く「人がいない」。この声に、設計という視点から応えてみます。8年間続けてきたブランドWGの経験から見えてきたことを書きます。

v0.1のおさらい

述語人材論v0.1では、次のような仮説を立てました。

述語人材とは、特別な個人のことではなく、コンセプト・手順・成果物・座組も”動かす側”として設計し、翻訳・共創・反復・研磨といった作用が立ち上がる条件を整える発想である。

この仮説は、ファシリテーターの能力だけに頼らなくても、要素の配置によって場は動かせる、という主張でした。

v0.1を公開したあと、いくつかの対話を通じて気づいたことがあります。この記事の意図が、読み手に十分伝わっていなかった。コンセプト・手順・成果物・座組の配置が大事だ、という話としては伝わる。でもその先にある「では、そういう配置を設計できる人をどう育てるのか」という本題には到達しにくい構成になっていた。

v0.2では、その点を補います。

4つの要素は「判断の基準を揃える」装置でもある

v0.1では、コンセプト・手順・成果物・座組を「作用を起こすための配置」として説明しました。翻訳作用を起こすにはこう配置する、反復作用にはこう、と。

それは間違いではありません。ただ、もう一つの機能があることに、実践を振り返る中で気づきました。

4つの要素は、参加者が「個人の好みや思いつきではなく、コンセプトに照らして考える」ようになるための装置でもあるのです。

コンセプトがあると、判断の基準が共有されます。「私はこれが好き」ではなく「コンセプトに照らして、これはどうか」という問いの立て方になる。

成果物があると、意識の向き先が変わります。「誰の意見が通るか」ではなく「良いものが作れるか」に自然と関心が向く。

手順があると、議論の進め方が個人の力量に左右されにくくなります。「なぜ(Why)」から考えるというルールがあれば、迷ったときに立ち戻れる場所がある。

つまり4つの要素は、参加者ひとりひとりの「個人としての判断」をいったん棚に上げて、共有された基準で考えることを促す装置として機能する。

ただし、棚に上げるとは創造性を抑えることではありません。共通の基準があるからこそ、「こういう観点でこれが面白い」と自分のアイデアを提案できる。基準がなければ、アイデアは好みの衝突になりかねない。基準があることで、創造性は安心して発揮しやすくなるのです。

2つの層がある

ここまでの話には、実は2つの層があります。

ひとつ目は、参加者の層です。コンセプトに照らして考え、その枠の中で創造性を発揮する。これは、4つの要素が適切に配置された場に参加すれば、多くの人ができるようになることです。場の構造がそれを促すからです。

2つ目は、設計者の層です。4つの要素そのものを設計し、配置する。「このプロジェクトには、どんなコンセプトが必要か」「どういう手順にすれば議論が深まるか」「成果物は何にするか」「座組をどう揃えるか」。こちらは、場に参加するだけでは身につきません。場そのものを構想する力が要ります。

述語人材論が本当に伝えたいのは、この2つ目の層についてです。

地域プロジェクトで「人がいない」と言われるとき、足りないのは参加者ではない場合が多い。足りないのは、場を設計できる人です。参加者の力を引き出す場を作れる人。v0.1で書いたコンセプト・手順・成果物・座組という枠組みは、その設計の手がかりです。

ブランドWGの8年間が示すもの

ここからは、雪国観光圏のブランドWGの経験を、設計者の視点から振り返ります。v0.1やブランドWGの記事では運営の仕組みとして紹介しましたが、ここでは「8年間の反復の中で何が起きたか」に焦点を当てます。

蓄積が制約になる

ブランドWGでは、毎号フリーペーパー『雪と旅』の特集を企画します。テーマのアイデアはいくつかのパターンに収斂していきます。食文化、アクティビティ、温泉。でも8年もやっていると、たいていのテーマは過去にやったことがある。

すると「同じテーマでも、前とは違う切り口は何だろう?」という問いが自然に発生します。過去の蓄積そのものが制約になり、その制約が切り口を深めることを強制する。これはv0.1で書いた「制約が表現を磨く」の、紙面スペースとは別の種類の制約です。

ここで設計者の役割が見えます。ブランドWGでは参加する観光協会のメンバーが数年で入れ替わります。新しいメンバーは過去の号を知りません。だから「それは前にもやりましたね。そのときはこういう切り口でした。でも他にもあるかもしれない」という情報を場に入れる人が必要になる。座長である私やWG事務局がその役割を担っています。

アイデアを出すのではなく、過去の蓄積という情報を場に投入することで、「同じではいられない」という圧力を作る。メンバーはその圧力の中で、自分たちの力で新しい切り口を探していく。

思考の型が伝播する

ブランドWGでは、2年に一度ほど、雪国観光圏のブランディングについて30分程度のレクチャーをします。コンセプトである「雪国の知恵」の考え方を共有するためです。そのあとは通常の企画会議に入り、繰り返しの中で徐々に「雪国の知恵」的な見方が共有されていきます。

ここで起きていることは、知識の伝達ではありません。コンセプトの内容を覚えるのではなく、コンセプトに照らして考えるという思考の型が身についていく。

それが身についた人は、テーマのアイデアを出すときに「これは雪国の知恵という観点からこう面白い」と、理由をつけて説明できるようになります。判断を好みではなくコンセプトに結びつけられる。

ただし、全員がそうなるわけではありません。何年参加しても型が入らない人もいます。一回で掴む人もいます。その違いは、自分の既存の判断基準をいったん保留にできるかどうか、にあるように思います。これは能力の問題ではなく、柔軟さの問題です。場の設計で促すことはできますが、強制はできません。

場の外への浸透

メンバーが入れ替わることは、WGの中だけを見れば蓄積が途切れるリスクです。

しかし、組織全体で見ると、別の意味があります。WGで思考の型を体得した人が、異動や担当替えによってWGの外に散っていく。すると、別のプロジェクトで話が通じやすくなる。たとえば雪国観光圏が新たにリトリート事業に取り組むとき、関わる観光協会のメンバーに元WGの参加者が何人かいると、コンセプトやブランディングに対する理解がすでにある状態で議論が始められる。

コンセプトが、WGという場を介して、種が風に乗るように組織の外へ広がっていく。メンバーの入れ替わりはWGの弱みではなく、コンセプト浸透の配送メカニズムとして機能しているのです。

反復が研磨するもの

ブランドWGの8年間を振り返ると、反復による研磨は3つの層で同時に起きていました。蓄積が制約となって表現の切り口が深まる。コンセプトに照らして考える思考の型が参加者に身につく。その型を持った人が外に散り、組織全体の地力が上がる。

この3層は独立しているのではなく、連動しています。表現が深まるから思考の型が鍛えられ、型が身についた人が散るから組織が変わる。設計者の仕事は、この連鎖が回り続ける条件を維持することです。コンセプトを伝え直し、過去の蓄積を場に投入し、メンバーの入れ替わりを恐れずに受け入れる。派手な変化ではありませんが、8年間続けることで確実に地力は変わります。

設計者という視座

述語人材論v0.1の仮説を、v0.2ではこう更新します。

述語人材とは、コンセプト・手順・成果物・座組の設計を通じて、参加者がコンセプトに照らして考え、創造性を発揮できる場を作る発想である。その場が反復されることで、表現・思考の型・組織の三つの層で研磨が起きる。

この設計ができる人を、どう育てるか。

v0.1の4つの要素(コンセプト・手順・成果物・座組)は、場の設計の手がかりになります。何を配置すればどの作用が起きるかを考える枠組みがあれば、個人の経験や勘だけに頼らなくても、設計に近づく道はあるはずです。

この仮説はまだ途上です。ブランドWGの事例はひとつの経験に過ぎません。ただ、地域プロジェクトで繰り返し聞く「人がいない」という嘆きに対して、「設計できる人を育てる」という道筋を示すことには意味があると考えています。今後は他の事例との比較も交えながら、この仮説を更新していきます。

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