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文化を共有すると、ブランドの意味が深まる

16年間、地域ブランディングに関わってきて実感していることがあります。それは、文化という根っこを共有することは、ブランドの意味を深めるということです。そしてN37は、それがこれからのブランディングの形だと考えています。

ここで言う「文化という根っこを共有する」とは、インスタ映えや誘客の道具として文化を消費することとは違います。そうではなくて、文化をブランディングの中心に据えることです。それは、地域のなかで「何を守り、何を育て、何を次に手渡すか」という志をそろえることでもあります。そうすることで結果的に、外に向けた言葉や体験に一貫性が生まれます。

ではここで「意味が深まる」とはどういうことでしょうか。

意味が深まる3つの理由

観光や地域の分野では、「地域らしさ」が大事だと繰り返し語られてきました。文化を軸にすると、その地域らしさは 確かさ・知恵・独自性 という形で、外の人にも伝わりやすくなります。

確かさ・知恵・独自性は、言葉だけで作るものではありません。背景には、その土地の自然条件、長い時間の積み重ね、道具や技、そこに関わる人の経験があります。さらに、それらが日々の工夫と繰り返しの中で磨かれ、伝えられる形に整えられることで、ブランドの意味は深まります。

1. 確かさ

文化は、その地域に根ざし、受け継がれてきたものです。流行に合わせて作られたものとは違い、文化として残るまでには、技や知恵、時間の積み重ねが必要になります。そうした蓄積があるからこそ、信じるに足る確かさが生まれます。

地形や気候といった環境があり、そこで暮らしや生業を続ける中で、工夫が積み重なり、技が受け継がれる。さらに、その積み重ねを言葉にして伝えることで、外の人にも届く確かさになります。

例えば雪国観光圏では、雪国文化研究WGの検討に基づいて、「雪とともにある暮らしが8,000年間続いてきた(※)」と表現しています。こうした長い年月の蓄積があることで、コンセプトが根っこにつながり、そこに確かさが宿ります。

「8,000年の雪国」は、雪国観光圏(YUKIGUNI JAPAN)および雪国文化研究WGの検討に基づいています。対馬暖流が日本海に流れ込み、季節風が水蒸気を含んで雪雲となり、山脈で大雪をもたらす、という説明が示されています。

2. 知恵

文化とは、環境に適応してきた 知恵 の集積でもあります。知恵は、自然条件への応答や歴史的な積み重ねが、「暮らしの工夫」として使える形に変わったものです。やがて、その工夫は個人の経験を越えて共有され、道具や手順や作法として定着していきます。

雪国観光圏のブランディングは、雪国文化の核心にあるものを「雪国の知恵」だと捉え直したことで、大きく前進しました。知恵というフィルターを通すと、あたりまえの習慣が、文化に根ざした営みとして見えてきます。例えば、雪国で晩秋に行われる雪囲いという日常を、「越冬のための知恵」と読み替えることで、体験ストーリーの源泉となります。

当たりまえの営みに埋め込まれている知恵は、その地に暮らす人にとって気づきにくい面があります。しかし、意識的に目を向けて先人たちの試行錯誤に気づくと、環境や歴史とのつながりが見えてきます。私たちが文化が濃く残る地域に惹かれるのは、こうした知恵を通して、環境や歴史と結びついて生きている感覚に触れられるからです。

3. 独自性

文化は、その土地で繰り返されてきた営みの束です。それは、誰かが意図して作ったものではなく、環境に適応し、歴史を受け継ぐ中で育ってきたものです。

例えば、「雪が降りすぎる」ことは、生活や交通にとっては弱点かもしれません。しかし、その雪に適応することで雁木(がんぎ)という建築様式や、雪室という保存技術が受け継がれてきました。こうした営みは、その土地の条件から生まれたものだからこそ、必然的に 独自性 を持ちます。

ブランド戦略において「差別化」は重要課題ですが、文化は無理に差別化しようとしなくても、そもそも固有のものです。それはある意味「偏り」でもありますが、平均的なバランスの良さではなく、偏りがあるからこそ、「ここでなければならない理由」にもつながります。

私たちは、そうした文化の偏りこそがコンセプトの種になると考えています。そして後述する文化の力フレームは、この偏りを「その土地にあるもの/そこで続けられてきた工夫/外に現れる働き」として捉え直し、資源-作用-力 の形で見えるようにします。

地域の誇り

このように文化という根っこを共有することは、地域外の人々への訴求力を持ちますが、それ以上に、地域内の人々に深く作用します。

観光地域づくりではよく「住んでよし、訪れてよし」と言われます。文化を軸にしたブランディングは、この「住んでよし」の質を高めます。

例えば、地域のB級グルメが評価されることと、自分たちが脈々と受け継いできた祭りが評価されることには、そこから得られる誇りにも違いがあります。

なぜなら、祭りのような文化が評価されることは、自分たちのルーツや日々の営みそのものが肯定されることだからです。そして文化は、地域の人々が共有しているものだからこそ、それを評価されたとき、喜びを分かち合うことができる。

文化を軸にしたブランディングによって、喜びを分かち合い、誇りを高めることは、人口減少時代において地域を支える精神的な支柱になると、私たちは思っています。

文化をブランディングにつなぐ

では、文化を「ふわっとした良さ」で終わらせないために、どうブランディングへつなぐか。

文化は見えない力です。日常ではそのままで構わないのですが、ブランディングにつなぐためには、恣意的でもなく、感覚的でもなく、多様な関係者が納得できるように構造化して示す必要があると考えました。そこでN37が開発したのが、文化の力フレームです。

そこでは、環境・関係・技術・歴史・知といった資源と、その使われ方(作用)から、「文化の力」がどこにあり、どこに伸びしろがあるかを整理します。具体的にはヒアリングにもとづき、「どの資源・どの力が効いているか」「どこに伸びしろがあるか」を診断し、その結果をもとに、「どんな関係性を結び、どんな意味を育てていくか」を軸に、コンセプトや事業の方向性を設計します。

そうすることで、感覚的だった「らしさ」や強みを、共有可能な見取り図として可視化することができるようになります。

これからのブランディングの形

生成AIの浸透によって、これからますます文化の力は重要度を増すと考えています。

AIの議論には、記号接地という未解決の大きな問題があります。コンピュータや人工知能は、言葉や記号を、現実世界の意味と結びつけて理解しているわけではないということです。

この問題を最初に提唱した認知科学者スティーブン・ハルナッドは、この状態を「記号から記号へのメリーゴーランド」と言った。記号を別の記号で表現するだけでは、いつまで経ってもことばの対象についての理解は得られない。ことばの意味を本当に理解するためには、まるごとの対象について身体的な経験を持たなければならない。(言語の本質/今井むつみ・秋田喜美著)

ここでいわれている「身体的な経験」が鍵になります。このことは地域にとって追い風になります。言葉が猛烈なスピードで大量に作られる時代であるほど、地に足をつけて紡いできた営みそのものの価値が高まるからです。AIには、雪の冷たさも、祭りの熱気もわかりません。言葉が簡単に大量生産される時代だからこそ、身体的な経験に裏打ちされた「厚み」が、強いブランディングになるのです。

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