本ページは、文化の力フレームを用いた文化観測の試行記録です。定義ページで示す各作用が、実際の文化形成過程でどのように現れるかを確認することを目的としています。内容は研究途中のものを含みます。
歌舞伎では、反復・研磨・翻訳・適応・再生が重なり、家元制と配役理論を軸に型と演目が洗練・継承された。花道など劇場装置と興行制度が環境の力を高め、分業ネットワークの共創作用が技術・歴史・関係を束ね、知の力が全体を統御することで、成立期以降も強い文化の力が持続している。
資源
- 環境資源:江戸〜大都市圏の劇場集積(花道・桟敷など空間装置)/都市インフラ(回遊動線・興行制度)。
- 関係資源:家元・名跡・座元・劇場・衣裳・鬘・鳴物・客席(贔屓)まで続く分業ネットワーク。
- 技術資源:演技・所作事・立廻り・発声・黒衣・回り舞台・セリ・照明・衣裳・鬘の総合技法。
- 歴史資源:17世紀以降の興行史・検閲と規制・災禍からの再建・改訂履歴/長期蓄積(演目・演出・音楽・振付・衣裳)。
- 知的資源:型・見得・構え等の語彙。
資源に眠る力を引き出す
環境の力
- 環境資源(劇場)→適応作用(観客との距離を縮め、視覚的・心理的没入感を最適化)→環境の力(花道・桟敷・回り舞台・セリなどの発明)
- 環境資源(劇場)→反復作用(定席・興行サイクル)→環境の力(舞台転換の機構化:回り舞台・迫り・黒衣など)
関係の力
- 関係資源(分業ネットワーク)→共創作用→関係の力(座内の協働)
技術の力
- 技術資源(総合技法)→研磨作用(型の洗練)+反復作用(稽古体系)→技術の力(高度な型の体系化と熟達)
- 技術資源+歴史資源(上演されなくなった演目・演出・音楽・振付・衣裳)+知的資源(資料・口伝・絵画・楽譜)→再生作用(失伝演目の復曲)→技術の力(現代の舞台・観客・技術・解釈に合わせて再構成して上演)
歴史の力
- 技術資源(演目・演出)→反復作用→歴史の力(年中行事・顔見世)
- 関係資源→反復作用→歴史の力(名跡継承と門弟制度)
知の力
- 知的資源(型、見得、構えなどの語彙/台本・演出メモ・稽古ノート)→翻訳作用+研磨作用→知の力(演目注釈:筋、場面、役柄、型の要所を解く資料)
- 知的資源(役柄・家芸・身体/声・段位)→翻訳作用+反復作用+研磨作用+適応作用→知の力(配役理論:役柄の位、体格、声、年齢・家の芸に合わせて座組を組む原理)
力の連関により文化の力を引き出す
知の力×環境の力×関係の力×技術の力×歴史の力
- 知的資源(型、演目目録、作法、芸の系譜、屋号、家紋、当たり役)
+環境の力(劇場構造)
+関係の力(座組・序列・興行ネットワーク)
+技術の力(高度な型の体系化と熟達)
+歴史の力(家の芸・演目系譜・慣習)
→研磨作用+反復作用+翻訳作用
→知の力(家系・名跡の意味体系:名跡は芸の系譜の器・継承は型、演目目録、作法を身体に移す行為・屋号、家紋、当たり役が記号として機能)
知の力×関係の力×技術の力×歴史の力
- 知的資源(型、見得、構えなどの語彙)
+技術の力(高度な型の体系化)
+関係の力(座内の協働)
+歴史の力(家の芸・演目系譜・慣習)
→研磨作用+翻訳作用+反復作用
→知の力(教育カリキュラム:所作・発声・立ち回り/組稽古・通し稽古/口伝、記録)